はたらきざかりにメンタル不調を経験
私は、働く人たちのメンタルヘルス、うつ病予防、うつ病復帰支援を
担当する保健師、精神保健福祉士として講演活動をしていますが、
過去に、うつ病で仕事も仲間も自信も失った経験を持っています。
突然のめまいで始まったのです。
天井がぐるぐる回って寝返りしても めまいがひどく、
耳鼻科に受診したら 突発性難聴と言われました。
それでも 仕事を休むことができずにいると、
そのうち のどに あめ玉が詰まったような違和感が出てきました。
頭に、孫悟空の輪っかがはめ付けられたように痛くて・・・
吐き気がして 下痢が止まらなくなりました。
買い物に行っても 何を買ったらいいのか 考えられない・・・
台所にも立てなくて食べられなり、
体重が2ヶ月で 15Kgもやせてしまいました。
電車で1時間の職場に 2時間かかってもたどり着けない。
やっと職場に着いても 建物の中に入れなかったのです。
そして、とうとう水を飲むのも辛くなって、
壁伝いに 部屋の中を 歩くのがやっとでした。
気持ちが落ち込むと言うよりは、
からだが心の疲れに気づかせようと、一生懸命だったんだと思います。
当時、公務員だった私は 予算の流れがちょっと変わるだけで、
昨日までしていた仕事が打ち切られたり、
現場のニードもないのに、
予算消化のために仕事をしなければならないのが苦痛でした。
同じ専門職であるはずの保健師どうしが、
以前は、お互いにカバーしあっていたのに、
機構改革で専門細分化が進み、
仲間の仕事が見えなくなってしまいました。
そんな変化を受け入れることができなかったのです。
いい仕事をしようとすればするほど
色んな障害が立ちはだかって
身動きできなくなってるのに、前に進むしかなかったのです。
めまいを初めて起こした時から、3年も我慢し続けて、
とうとう 私の心は壊れてしまったのでした。
それから 1年間 仕事を休みましたが、
やっぱり 元の職場には戻る気持ちにはなれず、
ある夜、誰もいなくなった職場に荷物を取りにいきました。
(昼間、その建物には入れなかったから)
パソコン立ち上げて 退職届を送信したのです。
よくドラマにあるような手書きの退職届けを提出するのではなくて、
電子決済になってたから、必要事項を入力してENTERを押したら、
それで おしまい。
24年も勤めたのに 去る時なんて本当にあっけないものでした。
メンタルヘルスをミッションに!
精神科で2年間、抗うつ剤を飲んで治療しました。
薬の力を借りて 眠ったり、強い抑うつ気分を改善することは可能ですが、
回復をはっきりと実感できたのは、
薬を飲まなくなって、半年ほど経った頃でした。
退職後は、リハビリのつもりでのんびり仕事しようと思っていました。
保健師資格のおかげで、仕事に困ることはありませんでした。
しかし、困ったことがひとつありました。、
休職中にすっかり生活リズムが乱れてしまった私は
朝、決った時間に起きるということ自体が
非常に高いハードルだったのです。
抗うつ剤を飲んでいると、昼間ボーっとしてしまったり
睡眠薬のおかげで、眠りすぎてしまったり。
朝、決まった時間に起きるということが、
富士登山ほどの試練に思えていました。
退職して1年経った頃、
友人が自宅から40分ほどの健診機関での仕事を紹介してくれたのですが、
朝、8時半の勤務開始時間に間に合うように
7時半に家を出る・・・
そのためには、遅くても 7時には起きないといけない・・・
当時、私には、
中学生の子どもがいましたから
お弁当も作らないといけない・・・
でも、もう台所には2年近く 立っていない・・・
そんなことを考えると、
たちまち自信がなくなってしまいました。
たった40分の通勤のために
自分だけ 会社の近くにマンションを借りようかと思ったほどでした。
でも、冷静に考えたら、
起きられなくて、出勤できなくなることや
通勤の途中に電車に乗ってられなくなって、家に戻ることや
怖くて建物内に入れないこと・・・
それらは、私が経験したことではあったけれど、
2年も治療したのですから、体調はかなり良くなっていて、
漠然とした不安でしかなかったのです。
でも、なかなか一歩が踏み出せない。
このまま、起こりもしてないことに不安を感じて、一生終わるか
できるか、できないか、わからないけれど やってみるしかない。
そして、少しずつ自信を取り戻した頃、
ふと思ったのです。
「私は何故メンタル不調になったのだろう?」
「どうすれば予防できたのだろう?」
保健師である私がメンタル不調になったのは
何か意味があるはず・・・!!
もし、これがわかったら、心の健康に関することを仕事にしよう!
私は、心理学を学び、
カウンセラー、コーチ、セラピストの資格を取りました。
そして、働く人たちが
働き盛りに自分の力を発揮できないで悩んだり
自分のことが信じられなくて苦しんだり
大切な命を自分で摘み取るようなことをしなくてすむように
メンタルヘルスをミッションにすることを決めたのです。
うつ病は本来の自分からのギフト
うつ・気分障害協会を設立した保健師 山口律子さんは、
著書「家族力がうつから救う」の中で
「今までの生き方を続けていたら、大変なことになるから、
無理やりにでも、ブレーキがかかるように、
うつ病が止めてくれているんだ。」と書いています。
うつ病になる人の多くは、良く言えば、
まじめで責任感が強くて、何にでも一生懸命で。
悪く言えば、融通が利かなくて、余裕がない。
ピンと張り詰めた糸のように、いつ切れても
おかしくないような はたらき方をしています。
そのまま走り続けると、どこかにぶつかって大破するか
エネルギー切れで、行き倒れになるか。
そうなってしまう前に、ちょっと止まって考えてみよう・・・
一生、今の生活を続けていくつもりなのか?
本当に、今の生き方でいいのか?
それで、本当に幸せなのか?
そんな警告を発してくれるのが
うつ病だというのです。
本来の自分からの警告であり、ギフト。
その警告に耳を傾け、しばし立ち止まり、
休憩することが必要なのです。
ピンチをチャンスに変える力に
止まって、見て、選ぶ
うつ病は、この3つのことをする時間をくれます。
あなたが、うつ病になったのは、
色々と理由があるでしょう。
「あの時の、両親の言葉が・・・」
「あの時に、あの場所さえ行かなければ・・・」
しかし、ちょっと考えてみてください。
過去を悔やんでも悔やみきれない
山ほどの理由を連ねたとしても、
過ぎた時間は戻りません。
自分にとって、本当に大事なことは何?
本当は何がしたかったのか?
この答えを未来求めてみましょう。
元気になったら、何をしよう?
そのために、今、できることは何か?
もう十分治療し、休養ができていたとしたら
できることから、ちょっとずつ動き始める。
そして、ちょっとの行動を起こすことができた自分を認める。
そんな繰り返しが、未来を作っていきます。
人生は、振り子のようなもの。
大きく右に振れた後は、同じくらい大きく左に振れる。
大きなマイナスのあとには、大きなプラスに振れるしかないのです。
私の周りには、うつ病を体験したことで、
自分の人生を見つめなおし、
何が大切か、何がしたいか、を選びなおした結果
大きな成功や、大きな幸せをつかんだ人が
たくさんいます。
ピンチをチャンスに変える力は、
あなた自身の中にあるのです。
答えは自分の中にある
未来をつくるためのヒントは
誰かに与えられるものではなく、
自分の中から出てくるものです。
カウンセリングとは、
心理学の偉い学者が何か教えてくれるのではなく、
カウンセラーと一緒に
自分で心の中にある宝物を探すという作業です。
ある人は夢をみつけ
ある人は自信を取り戻し
ある人はかけがえのない人生を抱きしめる
うつ病から回復していった人には共通点があります。
それは、「自分の素晴らしさを発見する」ことです。
そして、気づきます。
全てを失ったことさえ、
大切なたったひとつのものを選び取るために
必要なことだったのだと。
会社にも保健室が必要
私は、主に心の病気であるうつ病の社員の相談役をしています。
多い時は、一日に4~5人。少ない時でもひとりは、
今にもつぶれそうな表情で部屋を訪れたり、電話やメールをいただいたりします。
「人間関係がぎくしゃくしている」
「複雑化・多様化で集中力が必要な業務が増えた」
「1ヶ月あたり100時間を越える時間外労働」
はたらく現場は、様々なストレスに満ちているのです。
そして、相談に来る人の誰もが口をそろえて
「まさか、自分がこんな状態になるとは思いもしなかった」と言います。
できるだけ直接会って、話を聴きます。
話すだけで、気持ちが落ち着いて、笑顔で職場に戻れる人もいます。
一方、うつ症状が進行していて、治療が必要な人もいます。
その場合、薬についての相談にのったり、
職場で必要な配慮を人事担当者や上司を交えて話し合ったり、
社員が抱える問題の整理を手伝うために話しを聴き、
自ら解決する糸口をつかむことを支援します。
そして、相談に訪れる社員のほとんどが、話をするうちに自分の状態を受け入れ、
問題を整理し、適切な治療を受け、復職することができるのです。
私がやっている仕事は、子どもの頃に、誰もがお世話になった保健室に似ています。
おなかが痛くなったり、しんどくなった時に少し休んだら
元気になって、教室に戻れたり、遊べるようになっていたりしたことでしょう。
会社にも、こんな場所は必要なんです。
チームヒューマンでは、はたらく心のケアと予防のために
必要な知識とスキルを提供することを業務にしています。
日常的に気軽にできる対策を
からだの健康は、どこかが痛いとか、だるいとか、
ちょっと困る症状が出てきます。
血液検査やレントゲンなどで異常が発見されると、
自分でも病気であることが自覚できます。
しかし、心の健康状態を見る客観的な検査はありません。
自分で気づき、意識して、
ストレスをコントロールすることが必要です。
メンタルヘルスということばを
耳にされることが多いと思います。
直訳すると、「心の健康」なんですが、
何となく、「すでに心が病んでいる」というイメージがありませんか?
「気持ちが落ち込んでいる人には、こんな言葉かけをしましょう」
とか、「自殺者を出さないために」とか。
メンタルヘルスに取り組む人たちが、
その責任の重さに潰されてしまうような対策をイメージしがちです。
たとえば、風邪予防のうがいや手洗いのように、
日常生活の中の習慣の一部として、
メンタルヘルス対策に取り組める体制をつくりましょう。